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@yo-iidaのlog

非対称性の連鎖(情報→楽しさ→モチベーション)を超えていくために

マネージャーになって2ヶ月ほど経ったが、最近思うことがあったので書いてみる。

情報の非対称性とは

情報の非対称性と調べると市場における情報格差が出てくるが、ここでは組織における情報の非対称性について話す。

情報の非対称性自体は、2者がいるとき一方が知っていて一方は知らないものがある状態のことを指す。

組織における大きな意思決定の情報は、権限のピラミッドにおいて上から下に流れる。簡単のため、経営陣→マネージャー→社員という3ステップで考える。このとき非対称性と呼ばれるのは、「経営陣が知っていてマネージャー、社員が知らない情報」、「経営陣、マネージャーが知っていて社員が知らない情報」がある状態のことを非対称性が発生しているという。

この組織の意思決定における情報の非対称性は単に伝達の途中で間違って伝わったりロストするリスク以外にも様々な問題があるのではないかと思ったことが発端である。

情報の非対称性の例

上司「最近どう?大変そうだけど、この仕事今月中には片付けたいね」

部下「いや、これは来月末までかかりますよ。」

上司「来月はXXの案件が始まるからきついなー、部下にはメインで入って欲しいからはみ出るとしても誰かに任せられるようにしておいてよ」

部下「いや、その案件は初耳です。。」

上司「今期中に小さめので実績積んで、来期でかいの取りに行きたいんだよね。ここで実績作らないと次に繋がらないから先週急遽決まって。言ってなかったっけ?まあそういうことだから。」

部下「そうですか。。どうにかします。。」

(あるあるっぽいやつを想像で書いており事実に基づいた話ではありません。)

ここで起きているのは単に次の案件の開始時期が伝わっておらず業務調整が困難になっているということだけではない。

隠れているであろう事象はたとえば以下のようなことである。

  • 上司はこの構想を半年前から考えており、資料ベースでは部下に共有している
  • 上司の構想は経営計画から逆算して作った事業戦略である
  • 部下は経営計画の内容は知らない
  • 部下は上司の構想の資料を読んだことがあるが目の前の仕事とは紐づいていない
  • 上司は部下の抱えている具体的な課題を把握していない
  • 上司はこの計画がうまく行けば大きな利益貢献ができると見積もっており楽しみにしている
  • 部下は仕事が増えることを悪く思っており、仕事を増やすために安い仕事をしたくはないと思っている

これを非対称性という観点で深掘ってみる。

楽しさの非対称性

上司は経営計画から考えて自分の管轄する領域で次の大きな仕事が取れた場合全社的なインパクトも大きいためとても楽しみにしていたとする。 経営計画という 「経営陣、マネージャーが知っていて社員が知らない情報」という非対称性の中で自分が主導権を持って考えているため楽しみにするのは当たり前の話である。またその方針決めにあたって経営陣とも調整しており期待を持たれているため成功に向かうモチベーションは非常に高い。

一方、部下は上司のことを無責任にとにかく仕事を増やす上司だと思っており、なぜその仕事をやるのかは理解していない。楽しさはなく、仕事をこなすだけになっているのでモチベーションも低い。

ここでは、情報が非対称であることで仕事における楽しさも非対称性がおきる可能性がある、ということを言いたい。

これはいわゆる「当事者意識を持て」という無茶振りに繋がりやすい。情報非対称性がある状態で情報の少ない側に「当事者意識を持て」というのは戦場で武器もないのに戦えと言っているようなもので、ほとんどのケースでプラスに働くことはないと考えている。

モチベーションの非対称性

仕事の楽しさに非対称性がある場合は、ほとんどの場合モチベーションにおいても非対称性が存在する。

例えば、上司は成果物に高いクオリティを求めるが部下は最低限のクオリティで切り抜けようとしている、といった具合だ。

モチベーションの非対称性があるチームではほとんどのことがうまくいかなくなる。まずはそういう仕事の質に現れ、コミュニケーションにずれがおき、だんだん人が来なくなるだろう。

人が辞める理由は何通りものパターンがあるが、元をたどるとこのような情報の非対称性が辞めることに繋がるケースも少なくはない気がしている。

インセプションデッキで超えられない壁

アジャイルソフトウェア開発においては、バックグラウンドやスキルセットが異なる人たちでチームを組成した際にチームビルディングのワークとしてインセプションデッキというものを作ることがある。

知らない人は、 5分でわかった気になるインセプションデッキ を読んでわかった気になってほしい。

一番最初のワークは「われわれはなぜここにいるのか?」という質問についてチーム全員で考える。チームの目的や組成された背景などを自分たちで考えて言語化してみるというものだ。

これにより、チームはどこに向かって何をすべきなのかがなんとなく把握できる。

しかし、プロジェクト開始時に方向性が見えていてチームがいい雰囲気で動きはじめていたとしても情報の非対称性は容赦無く忍び寄る。

「お客さんの都合で作るものが全く変わった。これまで作ってきたものは役に立たない。」

「1ヶ月後にはこのチームは解散することが決まった。」

「明日から当社はXXホールディングスの傘下に入る事になった。」

など。

仕方ないと割り切れることであればいいが、そうでないことも多い。そして振り回されるうちに楽しさはなくなりモチベーションもなくなっていく。なぜここにいるのかで考えたものと現実のギャップが大きくなってしまうとインセプションデッキはもはや役に立たない。

メテオフォールという表現もある。

情報の非対称性をどうやって超えるか

いくつかパターンがありそうなので整理してみる。

1. 非対称性を受け入れていく

非対称性はもはやどうにもならんとする考え方。

情報量、権限、責任は比例的に大きくなるように見える。情報がほしければ必要な対価を払うべし、的な考え方で合意していく。「当事者意識もて」とか言わないから上から降ってきたものはやってね、という合意。

旧来の強いリーダシップ型の組織で行われていたマネジメント的なやつ。

2. 非対称性をなくしていく

こちらを頑張っていきたい。

が、その前に自分の知っている情報をどんどん伝えていくことで情報の非対称性は減るはずなのになぜできないか?

  • 伝えること自体のコスト
  • 伝えた後のフォローのコスト
  • 伝えた内容をアップデートするコスト
  • 伝えることで法的リスクになるケース

などがありそうだ。

最後のやつはインサイダーとかなので議論してもしょうがないのでいったん無視するとして、他の三つは意思をもってコストを払えばもっとうまくやれる可能性はある。

例えば課題の報告が前向きな気持ちになれないのと同じで、インセプションデッキをひっくりかえすようなお知らせもマネージャーは当然しにくいのである。(そんな素振りを見せないマネージャーがいたらそういう気持ちを押し殺して気丈に振る舞うタイプか、本当にサイコパスかどちらかである。後者なら早く逃げた方がいい。)

伝えるということは自分が説明を求められる。そのためには全体像を理解し、自分の言葉で話せるようにする必要がある。自分の言葉で話すということは自分が批判される覚悟を持つと言うことである。

そして伝え方。内容によって、全員一緒か、1on1か、これもパターンがありすぎて、どれが適切なのか判断するのは非常に難しい。

そしてもうひとつポイントがあって、決定事項として伝えるのか、相談として伝えるのかという二択。決定事項として伝えるのは楽だが、そこに対して伝えられた側が考える余地がないため楽しさは減る。ということで考えてもらうために相談という形をとったほうが望ましいが、これはこれで伝えた内容を時間をかけてアップデートしていく必要がありとてもコストがかかる。特に上から決定事項で降りてきたものを下に相談でやりとりするのが一番コストがかかる話で、内容次第では自分より強い権限を持っている相手に決定を覆す相談をするのでこの領域になると相当なコストを払う必要がある。

しかしながら、正しいことをやっていく強い気持ちがあればこのコストも払えるだろう。

情報を持っている人はどう振る舞うべきか

結局情報を持っている人は何をすべきかという話で考えると、それを誰かに伝えて、フィードバックを得て、その情報をよりよいものにするということが理想的な状態のように思える。

だから経営陣やマネージャーのような情報と権限を持っている人は自分で手を動かしたりしていてはいけない、というのはこういう話からくるのではないかと思う。コストをかけるべきは意思決定を継続的によりよくする活動である、ということ。

日々の細かい仕事に忙殺されているようではいかん。(自戒をこめて)